日本・ロシア音楽家協会 | ЯРOM |
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日本・ロシア音楽家協会 創立30周年記念
ラフマニノフ生誕140年+1記念音楽祭 開催レポート
140th+1 Anniversary of the Birth of Sergei Rachmaninoff
Сергей Рахманинов
本日は国内外でご活躍の演奏家の方々が集まり、生誕140年記念となるラフマニノフの作品を次から次へと採り上げました。ラフマニノフは日本でも大変人気のある作曲家。客席は彼の作品を好む方々で一杯となっていました。また本日はラフマニノフだけではありません。ロシア音楽について研鑽を積んでこられました日本の作曲家の方々が、ラフマニノフをテーマに各々の作品を披露する場でもあったのです。
第一部最初の演目はヴァイオリンの佐藤まどかさん、チェロの安田謙一郎さん、ピアノの矢澤一彦さんによるピアノ三重奏曲。矢澤さんの安定した響きの中、佐藤さんの華やかな音色と安田さんの落ち着いた音色のコントラストが美しい演奏でした。続けて同じ演奏メンバーによる二宮毅さん作曲「祈りの鐘」。ラフマニノフをはじめ多くのロシア出身の作曲家にとって、鐘は重要な題材です。二宮さんの描く鐘は、夕暮れの美しい空にひそやかに鳴るような鐘の音でした。ヴァイオリンとチェロのハーモニーが大変美しく、時折入るピアノが表現する鐘の音が哀愁を誘いました。
さて編成が変わり、前半のクライマックスとなったのは、田中正也さん/佐藤勝重さんによる2台ピアノ「組曲第1番」の共演です。大変鋭敏な音楽的センスをお持ちのお二方による演奏は、大変現代的でお洒落でありながらも、懐かしい響きも持ち合わせたものでした。特に1曲目(舟歌)の流れの滑らかさと、3曲目(涙)の絶妙の間は素晴らしいものでした。
後半は連弾でのスタートです。先にご登場されたのは岡田敦子さん/木曽真奈美さんで、演目は「ファンタジー」でした。題材となった物語が存在する作品ですが、お二方はあたかも映画のワンシーンのように活き活きと演奏していらっしゃいました。続けて太田由美子さん/川崎智子さんによる「6つの小品」で、ロシア民謡を活かした演目になりました。お二方も大変息の合ったアンサンブルで、2曲目(スケルッツォ)の軽やかな音色、3曲目(ロシアの主題)のテンポ作りは特に見事でした。
最後は岩崎淑さん/洸さんのご姉弟によるチェロ・ソナタでした。4楽章とも非常に内容の深い大曲ですが、はじめから終わりまで洸さんの澄んだ音色には息を呑みました。お二人の味わい深い、そして音楽への熱のこもった演奏に、会場からは大きな拍手が湧きました。
(A. T.)
第二部はラフマニノフの声楽作品から始まりました。最初の演奏者はバス・バリトンの小原伸一さん。歌曲《ラザロの復活》と、初期の歌劇《アレコ》よりアレコのカヴァティーナ〈すべての天幕は寝しずまった〉の2曲を朗々と響き渡るつややかな美声で聴かせてくださいました。続くソプラノの小濱妙美さんは《歌うな美しい女よ私の前で》、《リラの花》、《夢》、《ここは佳きところ》、《春の流れ》の5作品で抒情性とドラマ性を兼ね備えた歌唱を披露、圧倒的な存在感で聴衆を魅了されました。歌曲《聖なる僧院の門のかたわらに》、《小作農奴》と歌劇《アレコ》よりジプシー老人の歌〈不思議な歌の力で〉の3曲を歌われたバスの岸本力さんは、それぞれの作品世界に浸りきった表情豊かなパフォーマンスでステージの空気を支配。お三方のピアノ伴奏をつとめた松山優香さんが、それぞれの歌い手の呼吸にぴったりと寄り添いつつ、オーケストラを思わせる色彩感あふれる演奏で作品の魅力を存分に引き出しておられました。
一連の声楽作品につづいて演奏されたのは、ラフマニノフの有名な歌曲《ヴォカリーズ》に基づく遠藤雅夫さんの新曲、《フリージング・ヴォカリーズ》(ヴァイオリンとピアノのための)です。始まったかと思いきや直ちに断ち切られ、すぐまたその続きが始まる…という、「だるまさんがころんだ」を思わせるような身振りの繰り返しが特徴的な作品で、おなじみの哀愁漂う旋律が現代的な響きへと変貌していくさまを大変面白く聴きました。佐藤まどかさんの流麗なヴァイオリンと作曲者ご自身のピアノとの精妙なアンサンブルも見事でした。
ここで休憩をはさみ、ピアノ2台のためのダイナミックな作品が二曲続きます。まずは岡田敦子さん、木曽真奈美さんの演奏で、ラフマニノフ弱冠18歳の時に作曲されたという《ロシア・ラプソディ》です。ロシア民謡ふうの主題が時に力強く、時にきらびやかな装飾を伴って変奏されていく様子は、ピアノ・ヴィルトゥオーゾとしてのこの作曲家の並々ならぬエネルギーを感じさせます。生き生きした演奏に加え、演奏者のお二人のとびっきりの笑顔も素敵でした。志村泉さん、村上弦一郎さんのペアが取り上げられた《組曲 第2番》は、ラフマニノフの2台ピアノ曲の中でもとりわけ頻繁に取り上げられる名曲。この編成ならではの分厚い響きのなかで二人のピアニストが競奏を繰り広げ、最後のタランテラまで一気に駆け抜けました。
第二部最後を飾るのは、松山元さん(ピアノ)、大谷康子さん(ヴァイオリン)、 安田謙一郎さん(チェロ)による《ピアノ三重奏曲 第2番 ニ短調》「悲しみの三重奏曲」です。50分近くに及ぶ大曲ですが、すみずみまで深い情感を込めて紡ぎあげられるその演奏は、まさしくベテランならではの円熟味を感じさせるものでした。
第一部・第二部合わせて約5時間半にも及ぶ長大な演奏会は大成功の裡に終了。ステージには第二部の出演者が勢ぞろいし、盛大な拍手で迎えられました。日本・ロシア音楽家協会の創立30周年を祝すのにふさわしい、輝かしい催しとなりました。
(N.J.)